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2017年2月27日月曜日

マイクロ波信号発生器MG3692Bを修理する

ブログの更新サボってましたスイマセン。春休みに入りわりとヒマなので久しぶりに投稿してみようと思います。

アンリツ製のマイクロ波信号発生器MG3692Bの修理に挑戦してみました。
ブローシャはこちら→ https://dl.cdn-anritsu.com/ja-jp/test-measurement/files/Brochures-Datasheets-Catalogs/Brochure/MG3690B_J2700.pdf


はじめは特にエラー表示もなく動作していましたが、しばらく通電していると「LOCK ERROR」という表示が出ました。マニュアルによると、100MHz VCXO(VC-OCXO 電圧制御可能な恒温槽付き水晶発振器)が10MHzのリファレンスにロックしていないときに出る表示とのこと。


VC-OCXOの不良だったら辛いな~と思いながらもとりあえず開腹して故障箇所の特定に入ります。



意外とスカスカで余裕のあるレイアウトですね。配線もキレイ。もしかしたら旧Wiltronの設計?面構えもWiltronブランドの信号発生器と同じ雰囲気です。
問題の"A3 Reference / Fine Loop"のボードは手前側のコネクタがたくさん出てるユニットです。


シールドケースから基板を取り出して目視で確認してみますが、特に怪しいところはありません。ケミコンは電源ラインのパスコンのみで、液漏れしているような痕跡は見つかりませんでした。「きっとPLLの積分器にケミコンが使われててそれを交換すれば直るだろう」と思っていましたが、この機種ではセラミックコンデンサが使われているようです。
こうなるともう各ポイントをオシロで突いて波形を見ないとどうしようもありません。しかし基板をシールドケースに入れたままでは大変... ということでエクステンションテーブルを自作して通電しながら調査を進めることに。


いろいろなポイントをつついているうちに、少しずつ回路が分かってきました。100MHz VC-OCXOを含むPLLは位相比較器にMCL製のSYPD-1を用いていて、位相比較器の出力は高周波を除去するLPFを通った後にアナログスイッチ(DG441DY)とオペアンプ(U15)で構成されたアクティブループフィルタに入力されます。そしてループフィルタの出力をオペアンプ(U59)でバッファした後にVCXOのコントロール端子を駆動しているようです。


ループフィルタ部分の回路を起こしてみました。アナログスイッチで抵抗とコンデンサを切り替えることで帯域を変更できるようになっています。実際にSetup Menuから切り替えてみると、きちんと切り替わっていますのでアナログスイッチは問題ない...多分。



問題の100MHz VC-OCXOのPLL部分の各部波形を貼っておきます。まずは位相比較器の後ろのLPFの出力を見てみます。上図の"Mixer_out"の点です。


10MHz REFと100MHz VC-OCXOの周波数の差が出てきてますね。続いてループフィルタの出力を見てみると...


なんだこれは...。
すごいことになってます。ループフィルタの出力がこんなんなので当然100MHz VC-OCXOのコントロール端子Vcの電圧は...


たまげたなぁ...。100MHz VC-OCXOの出力を広帯域受信機で聞いてみると、見事に周波数変調されてます。
さらに、ループフィルタのオペアンプの負極入力端子の波形を見てみると...


素直に絶句です。オペアンプの入力端子なのに1V?????
VC-OCXOのコントロール端子をOPENにしてPLLをオープンループで動作させてみると


変な発振はなくなりましたが、やはりおかしい。なぜこんな動作になっているのか意味がわかりませんでした。
各素子の電源電圧、アナログスイッチの制御電圧、コンデンサや抵抗の故障、パターンの断線・ショートなどなど、思いつくことは全て確認しましたが全て正常なよう。こうなるとループフィルタのオペアンプが怪しいような気がしてきました。半導体の経年劣化なんて滅多に無いですし、なぜこんなおかしな動作をしているのかが分からないので確信は持てませんが、「疑わしきは罰する」の精神で当該オペアンプを交換することにしました。


LT1007が届くまで1週間くらいかかるみたいなので、大須でOP177を買ってきて載せてみました。が、しかし... 各部の波形は全く変わらず!
オペアンプ君は悪くありませんでした。やっぱり「疑わしきは罰せず」という原則は守るべきなんですね。
ここまでやったところで、ふとVC-OCXOの周波数を今一度確認してみようと思い、制御電圧を外部から与えてテストしてみました。
コールドスタートからの周波数の変化はこんな感じ。


右側の信号がSG(MG3681A)からの正確な100MHz、左がVC-OCXOの信号です。OCXOなのに温まるにつれ100MHzから離れていく...。
続いて、十分に温まった状態でVC-OCXOのコントロール端子電圧を0Vから10Vまで変化させてみました。


可変範囲はデータシート(http://www.mtronpti.com/resources/XO5080-Series.pdf?v=2013-06-18 XO5081タイプ)の通りですが、発振周波数が100MHzよりかなり低く、コントロール電圧で吸収できないほどズレてます。つまりPLLのフィードバックで吸収できる範囲を大きく外れているために制御不能に陥ってしまったと...。
低い方にズレているということは、水晶振動子の真空が破れて分子との摩擦が大きくなり振動数が下がったのでしょうか。ググってみたら、気圧と振動数の関係について書かれた資料が見つかりました。
やはり圧力が上がると低い方に偏移すると。なるほど、VC-OCXOの故障とみて間違い無さそうです。冒頭でも書きましたが、最も壊れてほしくないパーツです(なんせ高い)。PTI社製のオシレータは米軍の軍用機器にも採用された実績があるらしく高い信頼性を持つはずなんですが、壊れるときは壊れるんですね。
この測定器はスタンバイ状態でもオーブンには常時通電される設計になってますが、前の持ち主は元電源のオンオフを繰り返したんでしょうか。何度も温まったり冷えたりを繰り返しているうちに水晶振動子の封止に亀裂が入ったと考えられます。それとも放出するときは完動品で、撤去やらなんやらで振動が加わって壊れたとか?
まあとにかく、故障部品が特定できたのであとは交換です。中古で使えそうなVC-OCXOを探して筐体内の空いてるスペースに設置しようかと考えましたが、もともと装着されていたものと同等以上の位相雑音特性のものとなると中古でもそれなりにいいお値段のようです。少し足せば新品でしかもピンコンパチのVC-OCXOが買えます。
どうするか迷いましたが、結局上記の新品のVC-OCXOを買うことにしました。


はるばるアメリカからやって来たVC-OCXO君。早速実装します。


ピッタリ。で、通電して10MHz REF OUT(100MHz OCXOの10分周出力)と10MHz REF INの波形を同時に観測してみると...


やりました!PLLロックしてます!!!!!!!!!
静止画では分かりづらいですが、Persistence表示なので過去の波形も表示されています。もし2つの信号の周波数がズレているとこんな感じの表示になります


セルフテストも全てパスします!やった~(^o^)


というわけで、修理完了です!修理にかかった費用はおよそ2万円。。。
MG3692Bが加わったことで、低周波ファンクションジェネレータオプション付きのシグナルジェネレータMG3681Aと合わせて0Hz~20GHzまでの信号が得られる環境が整いました。まあマイクロ波帯の工作はしない(そんな技術力は無い...)ので宝の持ち腐れになる予感がしますが...。

1 件のコメント:

  1. Thanks for posting this mate, your a bloody lifesaver!

    Thanks from Australia!

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